滋賀ダイハツ販売 栗東店

「おもてなし規格認証」の最高位である「紫認証」取得により表彰された、「滋賀ダイハツ販売栗東店」を運営する「滋賀ダイハツ販売株式会社」社長の後藤敬一さん。女性視点で居心地の良い店づくりを進め「人間性教育」をベースとした社員育成により高いおもてなし力を実現した

「おもてなし規格認証」の最高位 「紫認証」取得事業所に聞く

「おもてなし規格認証」の最高位である「紫認証」に6事業所が認定されました。期待を大きく超えるサービスを提供する事業所に対して付与されるのが紫認証です。認定機関による厳正な審査を経て、2月26日の「伸び盛り企業会議2018」(日本経済新聞社主催)で発表、表彰されました。

紫認証は、認証機関から推薦を受けるとともに、顧客・従業員・地域社会の満足を促進することにつながる取り組みや、さらに、従業員の人材育成・業務効率化・顧客満足の向上につながる独自の取り組みの実施について、ミステリーショッパーも活用しつつ確認された事業所が認証されます。

紫認証を取得するためにどんな取り組みが行われたのでしょうか? そして生産性向上はどのように実現されたのでしょうか? 表彰を受けた紫認証取得者の皆さんにお話をうかがいます。第1回は「滋賀ダイハツ販売栗東店」(滋賀県)を紹介します。

滋賀ダイハツ販売栗東店では、お客様の約7割を女性が占めていることから、女性スタッフが集まって「カフェプロジェクト」を結成、女性視点で居心地の良い店づくりを進めてきました。一部の社員に業務が集中しないように会社全体で業務改善を行い、そこで生まれた時間をお客様のおもてなしに割いています。一方、人財の育成面においては「滋賀掃除に学ぶ会」に参画するなど「人間性教育」をベースとして、高いおもてなし力を実現しています。

滋賀ダイハツ販売栗東店を運営する「滋賀ダイハツ販売株式会社」社長の後藤敬一さんに話を聞きます。

(取材:HANJO HANJO)

女性がひとりでも入れる店舗環境を創出

女性が一人でも気楽に入れるお店づくりに取り組んできた滋賀ダイハツ販売栗東店。ショールームに車がドンと置いてある、聞きなれない専門用語が飛び交っている・・・といった旧来のショールームのイメージを一掃、カフェのような空間は7割を占める女性のお客様の高い支持を得た
おもてなし規格認証の最高位である紫認証では「期待を大きく超えるおもてなし」が判断基準となっています。滋賀ダイハツの場合どのようなおもてなしだったと思われますか。

私どもはお客様の70%を占める女性に向けた店舗づくりを行っています。買い物の足に車を使われる女性や子どもの送り迎えに軽自動車を使われる奥様方がメインです。そのため「女性視点でのお店」という、一般的な自動車販売店とは異なるコンセプトを掲げています。

これまでの自動車販売店では「女性が一人ではちょっと入りにくい」という場面が多く見られたと思います。ショールームのまんなかに車がドンと置いてある、聞きなれない専門用語が飛び交っている、車のポスターが貼ってある・・・。車の運転はできても車自体の知識の少ない女性にとっては入りづらい雰囲気で「店の人に何か聞かれたらどうしよう・・・」とお客様を不安にさせるお店が多かった。

私どもはそういうところを改めて、女性が一人でも気楽にフラッと来てもらえる店舗にしようと取り組んできました。今では、試乗車は外に置いていますが車は中に置いていません。車のポスターも貼っていません。

社員の業務負担を減らし生まれた時間をお客様のおもてなしにあてる

お店には子ども用の遊び場も設置。お菓子や漫画も用意し、子どもが母親を引っ張ってお店に連れてきてくれるケースもあるという。業務や作業分担を工夫し、その分生まれた時間でサービスの付加価値を上げていく、滋賀ダイハツ栗東店はまさに生産性向上の理想形と言えるだろう
女性が入りやすいお店を作るにあたって、どのような努力や工夫をされたのでしょうか。

女性だけのプロジェクトチームである「カフェプロジェクト」を立ち上げました。情報を持ち寄って2ヶ月に一回、会合を行い、様々な施策を決めています。カフェプロジェクトを中心に店舗は大きく変革しました。

例えば、お客様のお出迎え、お見送り、それに対する店舗のオペレーション。お客様のお出迎えをしやすいように受付の場所を移動したり、自動ドアを「手押しの扉」に変えたりしました。なぜ手押しの扉なのかというと、私どもが扉を開けて「どうぞ」とお客様をお出迎えするためです。このオペレーションに変えてから、お客様が店に入ってこられるときに「ありがとう」と言ってくださるようになりました。そういうところから「お客様からお礼をいただけるよう、もっとがんばろう!」という気持ちがわいてくるのだと思います。

一部の社員に業務が集中するようなことはなかったのですか。

いっぺんにやろうと思ったらうまく行かなかったと思います。女性社員に負担が集中しないように会社全体の業務改善を行い、店舗の女性社員の仕事を他の部門や本部で吸い上げるようにしました。そこで生まれた時間をできるだけお客様のおもてなしに割くようにしました。

お店を変えたいと思った動機をお聞かせください。

きっかけは2009年の「関西経営品質賞」で奨励賞をいただいたことでした。審査員からのフィードバックがあったのですが、「滋賀ダイハツさんが(奨励賞ではなく)大賞に選ばれなかったのは、車が良いから売れているのか、滋賀ダイハツというブランド、お店が良いから車が売れているのかがわからなかった」とおっしゃられたんです。

その時、ちょっとした反発も覚えたのですが、逆にこの客観的な指摘を我々の強みに変えなければと思ったのです。それからは「お店の雰囲気が良いからここで買います」とお客様が言ってくださるようになろうと決意しました。

私どものお店にはお子様用に遊び場があります。お菓子も用意し、子どもさんにも喜んでいただけるようにしています。子どもさんがお母さんを引っ張って連れてきてくれるというケースもあります。漫画も読み放題なんです。小学生くらいになると一番いい場所に座って最新号の漫画を読んだりしています(笑)。お母さんが「ちょっとダイハツさんに行くよ」と子どもさんに声をかけると、喜んで車に同乗されるみたいです。

ほかにも滋賀県を代表する風景画家のひとり、ブライアン・ウィリアムズさんの作品も壁一面に展示して、地域との関わりを感じていただけるようにしています。

地域との関わりを感じてもらえるよう、滋賀県を代表する風景画家、ブライアン・ウィリアムズさんの作品も壁に展示している。滋賀ダイハツ販売栗東店では生産性向上、おもてなし力アップにより、販売実績も全国平均より約8ポイントも上回っている
業務や作業分担を工夫して、その分生まれた時間でサービスの付加価値を上げていくという、まさに生産性向上の理想形ですね。その改善は売上にも直結したのでしょうか。

県内の軽自動車シェアというのがあるのですが、昨年度(2016年4月~2017年3月)の滋賀県のダイハツ車は約41.4%です。全国平均が33.3%。ということは上乗せ分=約8.1%の販売を県内でさせていただいているということになります。

社員が幸せでない場所でお客様が満足することはない

会社の経営ビジョンとして5つの幸せを実現する「五幸」を掲げています。

私どもの経営ビジョンに「五幸の基本方針」があります。その1番は「社員の幸せ」なんです。2番目が「お客様の幸せ」です。なぜお客様が2番かというと、お客様は不幸せになることはないはずだからです。滋賀ダイハツ販売で不幸せになる、つまり期待以下の対応でお客様をがっかりさせたとしても、他社に変えることで期待通りの対応を受けられる可能性があります。そうなればお客様は満足されるわけです。大きな視点で考えればお客様が不幸せになることはないと思うのです。

ところが社員は必ずしもそうはいきません。滋賀ダイハツに不満で転職しても、行った先でそう簡単に成功はできません。そういう意味で滋賀ダイハツに入った社員は幸せにしてあげないといけないというのが私の思いにあるんです。だから「社員の幸せ」が1番目なんです。

お客様から喜んでもらえて、お客様の言葉で自分もうれしくなる、この循環をしっかりと感じる仕組みが、社員の幸せにつながります。お客様に「ここに来てよかった」と感謝してもらい、家族や友人が「あのお店いいよ」と薦めてくれる、そしてそれが自分に返ってくる。そういう満足感、幸福感を社員がたくさん感じることができる会社の風土が「社員のスキルアップ」につながると思います。

「おもてなし規格認証」の最高位である「紫認証」取得により表彰された、「滋賀ダイハツ販売栗東店」。女性視点で居心地の良い店づくりを進め、「人間性教育」をベースとした社員育成により高いおもてなし力を実現した
ES(従業員・社員の満足度)がCS(顧客の満足度)を上げるということですね。

私はある時点まで「お客様第一」というのが絶対的なものだと思っていました。しかし、経営品質の勉強をされている会社やトップの方を訪ねるなかで、それが間違いであることに気づきました。みなさん、社員の幸せを考えてやっておられるというのがわかり考えを改めました。

社員が幸せでない場所でお客様が満足することはまずありません。「社員の犠牲のもとにお客様の幸せが成り立っている」、反対に「社員の幸せのためにお客様を犠牲にする」――二者択一のやり方しかないと思っている経営者がいるかもしれませんが、私はそうは思いません。私はお客様も社員も両方がスパイラル状に幸せを感じられる世界があるはずだと信じています。

滋賀ダイハツ販売の経営ビジョンに掲げられているのが「五幸の基本方針」。その1番は「社員の幸せ」であり、次に「お客様の幸せ」が続く。「社員が幸せでない場所でお客様が満足することはありません」(後藤さん)
外国人の研修生も受け入れていますね。

インドネシアにダイハツの工場や販売会社がありますので、そこの研修生を3年前から受け入れています。主に自動車整備での外国人技能実習生です。私どものところで学んだことを国に帰って能力を発揮してもらうという支援です。

自動車整備士不足は全国的な問題になっていますが、私どもはいち早く対応していたのでそういうことにはなっていません。また効率アップにも取り組んでいます。お客様が多い分仕事も多いわけですから、それをいかに短時間でこなしていくかが大事なので、整備の改善もやっています。以前は1時間かかっていた作業を30分でこなすために、工具を工夫したり、ビデオで作業の様子を撮って動線の改善もしています。

外国人実習生の受け入れは日本人社員にもダイバーシティの点で良い影響があります。他の国の人と仕事をすることが違和感なくできるようになってきています。

おもてなし規格認証を中心としたグループで市町村を活性化していきたい

おもてなし規格認証取得の先駆者として次に考えるのは、おもてなし規格認証を中心としたグループで市町村を活性化していくことだという。写真は「掃除に学ぶ会」で小学校の子どもたちを前に話をする後藤さん
素手でトイレ掃除をする「滋賀掃除に学ぶ会」はなぜ始めたのですか。

私が社長に就任したときちょうど、NPO法人「日本を美しくする会」ができました。「実はこういう会があるんだけど入らないか」とある経営者からお誘いを受けたんです。そのとき私はトイレ掃除なんか自分がやるものではないと思っていたのですが、その方を尊敬していたこともあり、入ってみることにしたんです。

初めて体験したのは、岐阜県恵那市にある学校のトイレ掃除でした。会のメンバーは志の高い経営者ばかりでした。私は「やりたくないな」と思いながら掃除をしていたわけですが、周りが一斉にやるもんですから、やらざるを得なくなってしまったんです。

素手で便器の中に手を突っ込んで、ヤスリみたいな紙で磨いたんです。そしたらピカピカになるんですよ。我を忘れて気がついたら便器の中に顔を突っ込んでいました。汚かったトイレがきれいになることが自分の喜びに思えてきたんです。そこから私のトイレ掃除が始まりました。やがて滋賀でも会を作らないかという話が出てきて、私が音頭を取ってできたのが「滋賀掃除に学ぶ会」なんです。

後藤さんが音頭を取ってできた「滋賀掃除に学ぶ会」。社員にも伝わり滋賀ダイハツ販売全体で活動中だ。「私の学校もお願いします」と言われるようになり、社員と子どもたちが一緒になって掃除を行っている
社員の皆さんにもそれが伝わり、今では会社全体で活動しています。

学校と太いパイプができ、「私の学校もお願いします」と言われるようになりました。子どもたちと一緒になって掃除をするという形でやらせていただいています。この1年間に33校で「掃除に学ぶ会」を行いました。

33校というと、月に2~3回掃除をすることになります。今までは社員10人で一から十までやっていました。それだと1人6時間かかってしまい、通常の仕事ができなくなってしまいます。それを多い時には週2回やっていたら通常業務が回らなくなってしまう。そこでいろいろ改善をして「準備をする人」「実際に行く人」「片付けをする人」と3つに分けたら、長くても2時間で終えられるようになりました。こういった効率化は私どもの社員の能力の高さだと思っています。

おもてなし規格認証取得の先駆者として次は何をお考えですか。

商工会議所さんが中心になってエリア全体でおもてなし規格認証を取得する静岡県の取り組みの話をうかがいました。とても良い活動だと思います。滋賀県でも私どもが働きかけをしながら、おもてなし規格認証を中心としたグループで市町村を活性化していくこともやっていかなければと思っています。おもてなし規格認証はお客様のロイヤリティを高めるための後ろ盾になってくれます。知り合いの経営者にはまず「紅認証」を取るように勧めています。


滋賀ダイハツ販売 栗東店

滋賀ダイハツ販売 滋賀ダイハツ販売 栗東店

業種卸売業,小売業
URLhttps://www.shiga-daihatsu.co.jp/shops-all/daihatsu-ritto/
認証取得紫認証
取得期間2018年~
所在地〒520-3046 滋賀県栗東市大橋4-1-5

記事協力

HANJO HANJO